弊社の造りへのこだわりは、すべての段階において、長期貯蔵熟成が前提となっていることです。製造後すぐに出荷したいならそのような造りに、また吟醸香を出したいならそういう造りをする、それが蔵元の造りのこだわりですが、弊社が追求するのは、長く寝かせれば寝かせるほど味と香りに深みを増す酒、そのための造りです。
仕込み配合とはいわば「モロミの設計図」と言えるでしょう。使用する麹や米の割合や添加する水の量を設定するのです。弊社では常圧蒸留の複雑な香味を出すため、複数の仕込み配合を用いますが、その中に二次仕込みのときに主原料の米に添えて本来日本酒に使用される黄麹を仕込む「添え仕込み」を取り入れているのが特長です。黄麹は甘みを出すのに大変有効ですが、使いすぎると酒質を重くしてしまう欠点があります。弊社の長年をかけて培ってきた「添え仕込み技術」が長熟特吟に奥深い甘味を与えます。
弊社が使用している酵母CAN-1は、熊本県産業技術センターが常圧蒸留のために開発した焼酎用の酵母です。
この酵母は、減圧蒸留全盛期に弊社が常圧をメインに造っているという理由から、熊本県産業技術センターの依頼を受け、弊社にて製造規模の実験を行ったもので、中〜高い温度で気化し焼酎の中に入ってくる香気成分の生成に優れ、それはやがて長期熟成により馥郁たる熟成香に変化していきます。
日本酒の雑味を除きよい香を出す為に米を磨く造り方とは反対に、蒸留酒である焼酎は、削り取られる「米の外側」に旨味成分がある事から、この部分を「いかに残すか」が旨い焼酎を造るポイントとなります。そこで弊社が用いているのが「超音波洗米機」です。もともと醸造機器ではなく、京都の高級料亭などで飯米を洗うのに用いるもので、これを3機繋ぎ合わせた特注品です。これで洗米することで米の表面がぬかや汚れとともに薄く剥離し、外側の栄養素は残ります。
弊社では一次仕込みと二次仕込みを同じ容器で仕込む「すっぽん仕込み」を用いております。これにより最も大事なモロミの初期段階において、移送によるコンタミネーションを防ぎます。
常圧蒸留とは500年の歴史のある古式蒸留法で、真空蒸留をする減圧蒸留とは異なり平常の一気圧で蒸留するものです。蒸留釜の中は100度まで高温になるため、40度ほどで蒸留される減圧蒸留では蒸留されない高沸点の成分が蒸留されて焼酎に出てきます。その結果、焼酎は大変成分の多いものとなり、もともと成分が少なく蒸留直後から飲用できる減圧蒸留とは違い、蒸留直後はガス臭という硫黄様の臭いが立ち込め、味も荒々しく癖があり、新酒のうちはとても飲むに耐えません。ところが、長い歳月をかけて貯蔵熟成させることで、独特のにおいは馥郁たる芳香へ、癖のある雑味は幅と膨らみのある旨みへ、荒々しさはまろやかな甘さへと変化して行きます。熟成については科学的にまだ十分解明されていませんが、長い時間をかけて複雑な化学変化が起こるといわれています。最初から変化する成分を持たない減圧蒸留は貯蔵してもほとんど熟成しません。ウイスキーやブランデーも貯蔵熟成されますが、やはり常圧蒸留酒です。
改良に改良を重ねた常圧蒸留機の立ち上がり(ネック)は、熟成に適した成分を蒸留します。
蒸留機よりほとばしり出る清冽な新酒
貯蔵熟成は、ただ寝かせておけばよいというものではありません。貯蔵技術が必要です。常圧蒸留酒は、穀物由来の油分を含んでおり、とてもデリケートです。夏場の高温にさらすのはもっての外で、油分が酸化して「油臭」が付いてしまいます。また極度な低温になると油分が分離して澱になり、熟成のバランスを崩します。弊社の貯蔵タンクはすべて蔵の一階にあり、夏場はひんやりと涼しく、冬場は地熱の影響で極端に冷え込みません。また、ホーロータンクを使用することで金属イオンの影響を排除し、また、樫樽や甕のように貯蔵容器の影響を借りることなく、焼酎独自の力でピュアな熟成をします。
断熱加工を施した樽貯蔵室には空調設備を導入し24時間体制で温度と湿度の管理を行っており、スコットランドのハイランド地方と同じ条件を保っております。
四代目杜氏 中村 徹